2017年5月7日日曜日

白眉なり仁左衛門の『身替座禅』_こんぴら歌舞伎2017弾丸ツアーレポート③

2017年のこんぴら歌舞伎は、仁左衛門丈が座頭の組で「芝雀改め五代目中村雀右衛門襲名公演」であります。

さすが女形の雀右衛門さん、ワコール提供の華やかな襲名幕です。
今日の席は西桟敷2番。いちばんのお大尽席がある2階西桟敷のちょうど真下にあたりますが、この席の脇には小屋の中でいちばんぶっとい柱が鎮座しており、まんまですと舞台の半分が視界に入ってきません。厳しいなぁ …とごちながら、舞台の動きに合わせて、遠慮気味に態勢を変化…私の後ろにギザギザのEXILEモーションが出来ていたかもしれません… (;;;´Д`)ゝ。

金刀比羅宮は今は神社ですが、明治時代に廃仏毀釈が起こるまでは象頭山金光院松尾寺という真言宗の寺院で、いま虫六の頭上にあるお大尽席はそのお寺の別当さまが座るお席だったとの、Kコトラさんの解説…(注:メモして聞いていないので多少違うかも)。
…へえ、別当さまもこの柱は邪魔だったよなぁ、きっと。

でも、芝居小屋の雰囲気は伝わってきて面白いお席です。

○四国こんぴら歌舞伎大芝居
中村芝雀改め五代目中村雀右衛門襲名披露

  平成29年4月8日(土)~23日(日)

【第二部】
一、芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ) 葛の葉

 女房葛の葉/葛の葉姫 芝雀改め中村 雀右衛門
 柵       坂東 竹三郎
 信田庄司    片岡 松之助
 安倍保名    大谷 友右衛門


二、五代目中村雀右衛門襲名披露 口上(こうじょう)

 芝雀改め中村 雀右衛門
 幹部俳優出演


岡村柿紅 作
三、新古演劇十種の内 身替座禅(みがわりざぜん)

 山蔭右京    片岡 仁左衛門
 太郎冠者    尾上 松緑
 侍女千枝    坂東 新悟
 侍女小枝    大谷 廣松
 奥方玉の井   坂東 彌十郎

以上が【第二部】つまり夜の部の番組。

「葛の葉」は女形の大役で、もちろん雀右衛門丈が葛の葉をつとめます。陰陽師・安倍晴明の生母が、実は信田の森に千年も住んでいる白狐だったという「葛の葉伝説」をモチーフにしたお芝居で、正体がばれそうになった女房葛の葉が、赤ん坊をあやしながら、障子に和歌「恋しくば 尋ねて来てみよ和泉なる 信田の森の恨み葛の葉」を揮毫して、狐の正体を現して古巣の森に帰っていくクライマックスが見せ場です。筆を口に加えながら文字を書いたりしてちょっとアクロバチックなんですよね。

とはいえ、前段は柱のほうが気になってなかなか集中できず、けれん味がなくてイマイチ感否めず、最後は面白かったなぁと暖まっていたんです、が…虫六周辺の眼の肥えた方々、扇雀さんは金丸座の掛け筋をつかって宙乗りで消えていった、とか、時蔵さんの文字はきれいだったとか、手厳しいのでありました。葛の葉って、字が上手くないとダメなのね…やれやれ女形も大変なんですね。

口上では、仁左衛門丈が音頭をとって新・雀右衛門の襲名披露、一同列座のご挨拶。

仁左衛門丈が、先代の雀右衛門のおじさまはサングラスに革ジャンでオートバイに跨がって、それはそれはダンディでいらっしゃった…と(当代にそれを求めるのはちょっときびし…と言いかけて、会場笑い、雀右衛門さん苦笑…イジられとる)。そして、「自分の若い時に、先代には相手役に抜擢していただいて、大きな役をいろいろやらせていただいた大恩人です!」と感謝を述べていました。

それを聞いてフラッシュバックしたのは、虫六の歌舞伎観劇初体験。それまでテレビの「芸術劇場」(番組名あいまい)をみてヲタク心を満たしていたものの、本物の舞台を見るチャンスはなく、大学生になって上京の機会が作れるようになり、馳せ参じたはじめての歌舞伎舞台が新橋演舞場の『恋飛脚大和往来』の「封印切」と「二口村」だったのですが、これに出演していたのが、片岡孝夫の忠兵衛と先代雀右衛門の梅川でした。
今思い出してもうっとりするほど綺麗だったなぁ。(…と思いだし、ちょっとググってみたら、なんとその時の舞台とおぼしき映像が!( *≧艸≦*)

六代目成駒屋の権勢の陰で、先代が苦労したお話も何かで読みましたが、上方出身の孝夫時代の仁左衛門も、人気はあるのに本丸の歌舞伎座ではなかなか役が付かなかったという話も有名なので、あの会場が新橋演舞場だったことも理由があったのかなと、今になってみるといろいろ想像が膨らんだりした仁左衛門丈の口上でした。


で、『身替座禅』。
玉の井が岡惚れして一時も離れたくないという気持ちが共感できてしまうほど、美しい山陰右京。これって、ただ美しいってだけではだめで、チャーミングさが大切なんですよね。そういう意味では、勘三郎さんの右京とはまた別の魅力がありました。
恐妻家なのに浮気だけには知恵がまわるダメンズなんだけど、それが憎めない感じ。かつ、育ちはよくて気品があり、あくまで大人っぽい色気。
そういうものが、端正な所作やちょっとした視線の先に雑味なく表現されていて、鳥屋の向こうに好い匂いの花子がいるような、良い気分で過ごしてきた時間の余韻も感じさせて、凄いわぁとうっとりしているうちに、玉の井とのドタバタをこれまた下品にならないように笑わせて、あっという間に幕となりました。彌十郎さんの玉の井も恐妻ながらも芯は乙女なところが可愛くて哀れ。あえて怖い化粧にしないところが良かった。
(あーん、終わってしまった、もったいない…って感じ)
この芝居小屋だからこそ、それが濃縮して感じられたのかも…と思うと、この芝居小屋でこの舞台を見れたことは誠に眼福でありました。
たぶん今生みるべき『身替座禅』をみることが出来たという思い。

満足して小屋を出ようと下足を履いていたところで、頭上に神棚を発見!献げた御神酒に役者のみなさんのお名前がありました。今回、金比羅宮にお参りする時間が取れないので、ここで手をあわせました。(金比羅の神様すみません)

小屋を出てみんなが集まるのをまっていたら、ゴミ清掃車が本日のゴミを回収していきました。すごい量ですね。ご苦労さまです。
いよいよ明日は千穐楽、最後までよろしくお願いします。


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