2013年9月12日木曜日

シネバトル陥落_「リトルダンサー」言い切れなかったこと

こっそりエントリしてきました「シネバトル」。
何も見ないで、アドリブで、3分間で、お薦めの映画について語り、会場のお客さんが投票して、チャンピオンを決めるというイベントです。時計がカウントダウンされるのですが、挑戦者は見ることができずに会場の人だけが見てハラハラするというルールだそうです。(行って初めて知りました)

 で、便利屋虫六も恥ずかしながら、おすすめ映画「リトルダンサー」で挑戦させていただきましたが、惜しくも2位以内には残れませんでした…_| ̄|○ 残念!
(つかさ、担当者ST、勝負する前から「リベンジ戦ありますから」って、はじめから俺に勝たせるつもりなしか?!)

優勝は、「ストリート・オブ・クロコダイル」の八巻寿文さん
(言葉なし)

ステージ向きじゃない我が特性を自覚しました。
昼休みに運びの原稿で下読みしたら6分かかったので、こりゃあかんとは思っておりましたが、大事なことが半分も言えませんでしたな。原稿読めないし、現場にいったら白くなりました(爆)
ま、結果は結果なのでしょうがないっすね。

でも、シネバトルが終わったあとで、「私、『リトルダンサー』に入れました!」と声を掛けてくれた方も何人かいて、その方々がみんな綺麗な女の子だったので(笑)、虫六はやった甲斐があったと思いました。投票権なかったけどK室長も「僕も『リトルダンサー』に一票でしたよ」って言ってくれたし。

…と自分を慰めてみましょう。
花巻ちゃんじゃないけど、分かるヤツだけ分かればいい。(負け犬の遠吠え)


で、「『リトルダンサー』見たいです、見ます! 」と声をかけてくれた方々のために、虫六が本当はお伝えしたかった運び原稿を特別公開。(当日は、頭からしゃべっていくと緊張でど忘れして導入部で終わると思い、構成をお尻から(つまりラストシーンの話から)アドリブでプレゼンしました。結果、やっぱりいちばん良いところで時間切れだったんですが…)

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 私がお薦めしたいのは、「リトルダンサー」という、イギリス映画です。

キャッチコピーが「僕がバレエ・ダンサーを夢見てはいけないの?」

イギリス北部の炭坑の街(ダーラム)に住む11才の少年ビリーが、バレエの才能に芽生えて、プロのダンサーを目指して巣立っていくという物語。

沢山の魅力がありますが、この映画が私の心をとらえた部分を2点だけお話します。
1)親子の関係の描き方の秀逸さ
2)クラシックバレエなのに、ベースの音楽がイギリスのロックカルチャーという作りの痛快さ

1984年、イギリスは全ての炭鉱の閉鎖という社会問題を抱えていました。産業革命以来、近代化で世界をリードしてきたイギリスがすべての炭鉱を閉鎖する政策をきめたのがこの年らしい。イギリス国家経済全体の転換点といえるでしょう。そのまっただ中にビリーの一家も置かれています。労働争議、ストライキ。閉塞状況、お父さんたちは大人の事情でいっぱいいっぱいななわけです。母親はもう亡くなっていて形見はピアノです。

そんな大人の顔色を見ながら暮らしているビリーだったのですが、偶然クラシックバレエと出会い、はまり込んでいきます。彼は、もともと兄のレコードをこっそりかけてリズムにのって踊りながら家事をするような少年でした。ウィルキンソンというバレエ教師がビリーの才能を見いだして、「ロイヤル・バレエ学校」のオーディションを受けてみないか?と突拍子もないことを言い出します。

男がバレエなんか〜!という気持ちがビリーにもあるんだけど、スポーツ選手のように体を鍛えて表現する男性のダンサーもいるということを知って、プロになりたいという「夢」を描くようになります。

しかし、これは彼の家族には通じません。
貴重なオーディションのチャンスがあったのに、大人の事情に巻き込まれて、彼の夢は置き去りにされます。この街では男の子がバレエなんて論外なんです。
お母さんのピアノを焼いて暖をとったクリスマスの夜に、夢が絶たれた彼は渾身のダンスを父に見せて、その思いの丈をぶつけます。このダンスがすごい…父親は、やっと息子の才能に気がつく…お父さんだけじゃなく映画見ている人、みんな納得なんですけどね。それで、父はビリーをバレエ学校に進学させる決心をします。

何度かこの映画を観るうちに、この父親の心情が分かってきた気がして私は胸が痛くなりました。
この人はダーラムの街から出たことがない、炭鉱という共同体の中で価値観や感性を養ってきた人物です。男は偉丈夫で腕っ節が強くて、仲間からの信頼も篤くなければならない。しかし、息子は自分が持っている感覚からはみ出して理解もできない世界に旅立とうとしている。そして、自分自身も昨日まで疑いもしなかった自分のありように自信が無くなっていて否定できない。重い喪失感の中に父親はいます。
ですが、息子がここを出て行くことは……希望でもあるわけです。

かくして、この父親は、組合の仲間を裏切ってスト破りをします。バレエ学校に入れてやるためにお金がいるからです。
この勇気がすごいなと思うのです。

しかし、この映画全体には重苦しい感じがあまりありません。

全体を覆っているのが、グラムロックなどの軽快なロックミュージックだから。T-Rex(「コズミックダンサー」「チルドレン・オブ・レボリューション」など)やThe Jam(「悪意という名の街」)の名曲が使われていて、これが、あてて書かれたんじゃないか?と思うくらい場面にぴったりはまる曲だったりします。ビリーは、そんな曲にあわせてリズム感よく気持ちよく体を動かして見事に踊ります。これは見ていただかないことには分かってもらえません。

1984年というと私はちょうど大学生だったんですが、70年代くらいからイギリスではグラムロック、デイビッド・ボウイとかマーク・ボラン(T-Rex)とか流行っていまして、若干お姉さん世代の音楽というイメージですが、高校生の時はジャパンが日本ツアーをするなんていうので友達が大騒ぎしていました。いまのビジュアル系ロックの源流ですね。官能的で、バイセクシャルなファッションです。
ですから、映画の底の部分にはセクシャリティの問題も横たわっています。
経済だけじゃなくて、精神的・風俗的にもイギリスは変質した時期で、映画の背景として無視できません。

さて、ビリーはロンドンでオーディションに挑むことになりますが、これからのくだりはぜひハラハラしながら映画でみてください。

最後にラストシーンに出てくる25歳のビリーのシルエット。これがこの映画の全てを象徴していると思うのですが、ここでこの人出すんですか!というすばらしいキャスティングです。この映画の質とセンスの確かさを感じて余りある素晴らしいラストです。
    (*本番では、ここから話しました。しかも種明かしから。)

閉山になる炭鉱からダイヤモンドを見いだす話でした。


*蛇足の種明かし
25歳のビリー:アダム・クーパー

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