2010年2月15日月曜日

なぬ〜っ!の衝撃_国立劇場「文楽」2月公演

歌舞伎座2月公演の夜の部レポートがまだですが、一つとばして翌日の「文楽」観劇のレポートを。

歌舞伎座のチケットが無事に取れて上京の予定が立った時点で、虫六にはもう一つどおしても気になる公演がありました。それは、国立劇場でやっている「文楽公演」です。文楽の本拠地は大阪なので、国立文楽劇場が本劇場というわけですが、東京の国立劇場と隔月で公演を打っているそうです。で、2月は東京…。
スケジュールが確定した時点ですでにチケットの売り出しはとっくにはじまっていたので、果たして採れるのかなぁ〜と半信半疑で国立劇場のチケットセンターに電話をかけると、少しながらまだチケットはあるとのこと。なんとか床側の前方の席を確保しました。
旅行日程の中にスケジュールを組まなければならないもので…田舎ものは辛いなぁ。

で、いざ国立劇場へ。

2月の演目は、
 【第1部】
 『花競四季寿(はなくらべしきのことぶき)』
   万才・海女・関寺小町・鷺娘
 『孃景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)』
   花菱屋の段
   日向嶋の段
 【第2部】
 『大経師昔暦(だいきょうじむかしごよみ)』
   大経師内の段
   岡崎村梅龍内の段
   奥丹波隠れ家の段
 【第3部】
 『曽根崎心中(そねがさきしんじゅう)』
   生玉社前の段
   天満屋の段
   天神森の段

全部見たいところでしたが、本日中に帰らなければならないので拝見したのは第1部と第2部だけ。しかし、どれも想像以上に素晴らしいものでした。

はじめの『花競〜』は、所作ものと言われる人形に舞踊を踊らせる演目で、なんと鶴澤清治さんが率いる六丁六枚の大楽団の演奏を中心に据えた作品でした。義太夫浄瑠璃の凄まじい演奏テクニックを堪能できる非常に面白いものです。特に「関寺小町」は清治さんのほぼ独奏曲で太棹三味線の弦の深い響きや擦れる音、撥で叩きつける音、指が鳴らす音、倍音、一つの楽器でこんなにも多様な音色が出せるのか…と、目から鱗ならぬ、耳から鱗がとれました。気がつけば、床の方に釘付けになってしまい、人形の所作は全く見ないでしまいました。会場全体が「っん!」という清治さんの気合いと一丁の三味線という小さな箱の振動に共振している感じで、緊張感で胸がどくどくしました。
また、素人を自覚していたので、イヤホンガイドを借りてみたのですが、完全生音で聞きたいし、ザーザー言う音が不快だったので、結局上演がはじまったら取ってしまい、全く無駄にしてしまいました( ̄◆ ̄;)

『孃景清〜』では、豊竹咲太夫さんの語りが素晴らしく、聞き惚れてしまいました。糸滝哀れ、景清哀れ。
景清の衣装が、前日に見た『俊寛』のと同じで流人ルックなのだと理解できました。
余談ですが、お茶を運んだまま太夫の脇に控えていた咲寿太夫さんが本当に真剣に聞いていて、思わず『仏果を得ず』(三浦しをん)そのままの世界だなぁ〜と、想像を膨らませてしまいました。

そして、『大経師昔暦』。歌舞伎にも近松ものはもちろんありますが、ほとんどは文楽の人気狂言をいただいたものなわけで、それがオリジナルの人形浄瑠璃で見るとこんなに面白いのだ!ということが、衝撃的に分かりました。「おさん茂兵衛」として知られるこの作品は、天和年間に実際にあった不義密通事件を材として書かれたものだそうで、狂言では、ほんの親切心で犯した小さな罪が、微妙な心の掛け合わせが作用して大事になり、間違いで密通を犯すこととなり、止めることのできない運命の歯車に飲み込まれてしまうという救いどころのない物語なのですが、何故か新鮮でした。
内容は生々しいのですが、気品のある人形が演じることで物語が抽象的に映ってくるということもありますが、それ以上に義太夫の語りの力だと思いました。特に、おさんと茂兵衛が間違って暗がりで密通してしまう段は、竹本綱太夫さんの語りでしたが、「なぬ〜っ!」という終わり方なのです。半ば呆然としている状態で読み終わりになってしまうので、それまでいかにその語りに引き込まれていたかに気がつくという次第でした。あの時代に既にこんな演出が使われていたのだ、と改めて思い知らされました。
(かなり、もったいぶった書き方かも知れませんが、まだ千穐楽は21日ですからチャンスのある人はぜひお出かけください。観てもらうのが一番伝わります。けっこういい席が空いていたりして、誠にもったいないと思いました。)

歌舞伎座の派手な賑やかさとは対照的に、文楽を見に来たお客さん達はちょっとインテリっぽい地味な感じの方が多い気がしました。でも、例えば秋葉系の若者なども、これを見たら絶対面白いと思う!と感じた次第。一生をかけて芸道に打ち込んでいる技芸員の方々ですから、それを狂わせるようなブームもどうかと思うけど、もっと注目されてしかるべきとも思うのでした。

帰り道、銀座に逆戻りして、歌舞伎座裏の三味線やさん「朝日や」に立ち寄り、羽織の端切れで三味線袋が作れないかご相談して、全てのスケジュールを完了。お土産買って新幹線に飛び乗りました。体力的には抜け殻状態でしたが、精神的にはかなり充電できました。




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